A.従来の抗がん薬も副作用を軽くする治療法は進んでいます。分子標的薬は特定の分子を攻撃しますが副作用がないわけではありません。
解説
従来の抗がん薬も進歩している
従来の抗がん薬は、活発に分裂する細胞の遺伝子を傷つけます。この働きにより、正常細胞よりも速いスピードで増えるがん細胞を破壊します。しかし、これらの薬剤は、作用する細胞を選ぶことができませんので、同じことが正常の細胞にも起きることがあります。そのため、白血球が減ったり髪の毛が抜けたりするなど、さまざまな副作用が生じるのです。
しかし、ひとことに副作用といっても、抗がん薬の種類や組み合わせにより、症状や程度はさまざまです。また、精度の高い臨床研究のおかげで、これらは事前に予測できるようになりました。
しかも支持療法といって、それぞれの副作用を軽くするための治療法も数多く開発されています。
このような進歩を積み重ね、多くの治療は通院で行えるようになりました。
いたずらに恐れるのではなく、まずは治療のことをよく知ることです。
分子標的薬とゲノム医療
一方、分子標的薬は、がん細胞が増えるために必要なタンパク質や遺伝子などを突きとめ、その働きを邪魔するように設計された新しいタイプの抗がん薬です。
薬が作用する分子がピンポイントに限定されるため、従来の抗がん薬より副作用が少ないとされています。しかし勘違いされがちですが、決して副作用がないわけではありません。
逆にこれまでの抗がん薬にはみられなかった副作用が現れることも多く、その中には生命にかかわる重いものも含まれます。こちらも、薬剤の特徴をよく知ることが大切です。
ゲノム医療は、治療法そのものを示す言葉ではありません。患者さんごとにがん細胞などの遺伝情報を調べ、得られた結果からよりよい治療法を導き出す方法全体のことを表します。
分子標的療法と混同しがちなので、ご注意ください。
(辻村秀樹)
動画での解説
A.はい、それは本当です。しかし、対策法はどんどん進歩しており、適切な治療法を選ぶことができます。
解説
免疫力とはなにか
私たちの体を病原体から守る免疫という仕組みは、主に白血球という血液の細胞が担っています。
白血球には、好中球、リンパ球、単球など、多くの種類があり、また、各々の白血球は、さらに細かく分類されます。これらがそれぞれの役割を果たし、また、お互いに連携し合うことにより、細菌、ウイルス、カビなど、さまざまな病原体から私たちの体を守ってくれるのです。
抗がん薬の作用
従来の抗がん薬は、これら白血球の数を減らしたり、あるいは、機能を低下させたりします。
ここで注意しなければいけないのは、抗がん薬により、副作用の現れ方が異なるということです。
例えば、細菌との戦いで主力となる好中球が減りやすいものがあれば、逆に、それほど減らないものもあります。一方、好中球に与える影響は小さくても、ウイルスやカビなどを担当するリンパ球の働きを弱めてしまうものもあります。
また、副作用が1~2週で回復するものもあれば、数カ月間持続するものもあります。
このように、抗がん薬が免疫に与える影響は、薬の種類によりさまざまです。
その結果、起こりうる感染症の特徴も、治療内容により異なります。
副作用を予防する対策は進歩している
ここで述べた副作用は、臨床研究を重ねることにより、かなり予測できるようになりました。
それに合わせて、予防する方法も進歩しています。抗がん薬による治療を受ける際は、まず薬剤の特徴をよく知り、それに合わせた対策を取ることが大切です。十分な予防ができれば、日常生活を維持しながら治療を続けることも可能です。また、万が一、感染症を合併した場合でも、適切に対応できると思います。
(辻村秀樹)
動画での解説
A.免疫チェックポイント阻害薬は、分子標的薬の一つです。活性化自己リンパ球療法は、薬剤ではなく、リンパ球などの細胞を使った治療法です。両者は異なるものです。
解説
免疫チェックポイント阻害薬とは
免疫チェックポイント阻害薬とは、免疫に関係する分子を標的とした抗体治療であり、分子標的薬(Q14参照)の一つです。
免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1やPD-L1などの免疫を抑制する分子を標的とした抗体治療であり、厳密な治験をすることによって、がん患者さんに対して、有効性が証明され、2014年以来承認、保険適用になっています。2020年4月現在、ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブの6剤が保険適用になっています。
活性化自己リンパ球療法とは
活性化自己リンパ球療法は、薬剤ではなく、リンパ球などの細胞を使った治療法です。活性化自己リンパ球療法は、古くから研究は行われていますが、はっきりと有効性を示す証拠に乏しく、現在まで承認されていません。
日本臨床腫瘍学会が作成した『がん免疫療法ガイドライン第2版』(金原出版、2019)でも推奨されておりません。
(勝俣範之)
動画での解説
A.多くの分子標的薬は、進行がんや再発がんに対して、延命効果を示しています。一部の分子標的薬では、治癒させるものもあります。
解説
分子標的薬の現状
がんの分子標的薬は、現在では40種類以上が承認され、保険適用になっています。そして、その多くは、進行がんや再発がんに対して、「延命効果」を示しています。副作用は、従来の(いわゆる抗がん薬と呼ばれる)殺細胞薬物療法と比べて比較的少なく、中には何年もの間、がんと共存しながら長生きができるようになる薬剤もあります。
分子標的薬の効果と将来性
少数ではありますが、「治す」レベルまで効果を示した分子標的薬もあります。
慢性骨髄性白血病に対するイマチニブは「治す」ことができる代表的薬剤です。乳がんに使われるトラスツズマブも、手術後にトラスツズマブを投与することで、再発を抑制し、治癒率を向上させることが証明されています。
分子標的薬の研究は、世界中で積極的に行われていますので、将来的に研究が進めば、がんを「治せる」分子標的薬が増えてくる可能性は高いと思われます。
(勝俣範之)
動画での解説
A.そのような研究が行われているのは事実ですが、まだ研究段階のものです。
解説
血液や唾液による検査の研究
血液や唾液のみなどの簡単な検査で、将来がんになるかどうかがわかるようになれば、がんを早期に発見し、撲滅につながるのではないかと非常に期待されています。そのような研究は世界的にもいくつか研究されています。
現在、最も期待されているのは、血液中のマイクロRNAを測定することによって、がんを早期に発見しようという研究です。
ただ、現時点では、すべてのこのような研究は、実用段階に入ったという状況ではなく、研究段階です。
死亡原因にならないがんまで発見してしまう
また、がんは早期発見だけではなくて、がんの死亡率まで低下させるようなデータが証明されないと、本当に検査の有用性は証明されません。
がんの早期発見は、将来がんで亡くなることのないような比較的進行がゆっくりとしたがんを多く発見してしまうため、早期発見だけでは不十分ということが指摘されているからです。
このような、将来がんで亡くなることのないような進行がゆっくりとしたがんを発見してしまうことを、「過剰診断」と呼びます。こうしたがんの早期発見の研究が実用段階になるまでには、まだまだ年数がかかると予想されます。
(勝俣範之)
用語解説
●マイクロRNA(miRNA):血液や唾液、尿などの体液に含まれる22塩基程度の小さなRNAのこと。近年の研究で、がんなどの疾患にともなって患者の血液中でその種類や量が変動することが明らかになっています。
さらに、こうした血液中のマイクロRNA量は、抗がん薬の感受性の変化や転移、がんの消失などの病態の変化に相関するため、まったく新しい診断マーカーとして期待されています。
動画での解説
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